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読者


 コップに注いだ水道水を飲み干して、売れない小説家は目の前の友人に言う。
「なあ。この前いい小説のアイデアを思いついたんだが聞いてくれないか?」
「どんなアイデアが浮かんだんだい?」
「今度はさ、今社会問題になってる自殺について書こうと思ってるんだよ」
「なんだ、ありきたりじゃないか」
「いやいや、自殺を否定するんじゃない、自らの命を絶つことの美しさと秘められた荘厳について書くのさ」
「ふうん……まあ、頑張れよ」
 それから1年後。
 グラスに注がれたワインで唇を湿らせ、話題騒然の売れっ子小説家は目の前の友人に言う。
「ほーら俺が言ったとおり。売れただろ?」
「ああ、まさか自殺の話がここまで売れるとは思ってなかったよ」
「ふふ、今、第二作第三作を執筆中だよ」
「ふうん……まあ、頑張れよ」
 さらに2年後。
 コップに注いだ水道水を飲み干して、小説家は目の前の友人に言う。
「なあ、ちょっと金を貸してくれないか?」
「どうしたんだ? お前が金に困ることはないだろう?」
「いや、実はな、この前の第二作第三作なんだが……」
いいにくそうにする小説家に、友人は訊ねる。
「一巻の読者に不評だったのか?」
そこで小説家は、軽く首を横に振った。

「いや、読者が全員自殺したもんだから誰も買ってくれないんだよ」



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